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新潟地方裁判所 昭和36年(わ)309号 判決 1961年11月28日

被告人 院富応

大一三・一二・一五生 屑鉄商店員

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中五十日を右本刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三十一年十二月三日大宮簡易裁判所において窃盗罪により懲役二年、昭和三十四年三月十日大館簡易裁判所において窃盗未遂罪により懲役十月、昭和三十五年五月二十六日千葉簡易裁判所において窃盗未遂罪により懲役一年二月に各処せられ、いずれもその刑の執行を受け終つたものであるが、更に常習として昭和三十六年八月二十二日午前十一時十五分頃、新潟市花園町一丁目八十六の一番地国鉄新潟駅公衆便所前タクシー乗場においてタクシーを待合せ中の仙田貞治の背後に寄り添い隙を疑い同人着用のズボン右側尻ポケツトのボタンをはずして右手指を差入れ在中の千円札を窃取しようとしたが、たまたまタクシーが来て右仙田貞治が動いたためその目的をとげなかつたものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯となる前科)

被告人は前判示のように

一、昭和三十一年十二月三日大宮簡易裁判所において窃盗罪により懲役二年

二、昭和三十四年三月十日大館簡易裁判所において窃盗未遂罪により懲役十月

三、昭和三十五年五月二十六日千葉簡易裁判所において窃盗未遂罪により懲役一年二月

に各処せられ当時いずれもその刑の執行を受け終つたもので、右事実は前掲被告人の検察官に対する供述調書並びに前科調書の記載により明らかである。

(法令の適用)

被告人の判示所為は盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第三条、第二条に該当するところ、被告人には前示前科があるから刑法第五十九条第五十六条第五十七条第十四条に則り累犯の加重をなしその刑期の範囲内で処断すべきところ、犯罪の情状に憫諒すべきものがあるので刑法第六十六条、第七十一条、第六十八条第三号に則り酌量減軽した刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、なお同法第二十一条により未決勾留日数中五十日を右本刑に算入し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い全部これを被告人に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は「被告人は本件被害者の右尻ポケツトから千円札を抜きとろうとしてポケツトのボタンをはずしポケツトに右手指を差入れたのであるが、被害者の連れに子供を背負つた盲目の女がいることに気付き、このような連れを有する被害者から金員を窃取することは気の毒であると思い憫諒の情を催して盗るのをやめたものであるから、本件は障碍未遂ではなくて中止未遂であり被告人に対し刑の減軽又は免訴がなさるべきである」旨主張するが右主張事実は前掲証拠に照しこれを認めることができないばかりか、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第三条の法意は、窃盗罪強盗罪等を常習として犯す者に対しては既遂未遂を問わずそれが常習者の犯行である以上重く処罰する論旨であるから、未遂犯(中止未遂を含む)であるからといつて法律上の減軽(又は刑の免除)をなすべきものではないと解する。

従つて弁護人の主張は採用することができない。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺桂二)

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